アバンセライフサポート・会長のつぶやき

日本人になるには…旅の途中で考えた。

  先日、1年7か月ぶりにブラジルを訪問しましたが、一昨年とは一転様変わりした状況に驚かされました。日本は新型コロナ禍にあっても社会的規律や秩序を崩さず、頻繁な方向転換に対応しながらじっと耐え忍び、嵐が通り過ぎるのを待つ国民性ですが、ブラジルは全く違います。大統領は「あんなの風邪だよ」と言い、自分がかかったら「ECMO」に助けてもらい、国民は当初「マスクなど女子供かギャングがするものだ」などと言って医療従事者以外ほとんど誰も着用していませんでした。格差社会の常で、ファベーラ(貧民窟)は不衛生極まりなく、情報弱者だったこともありパンデミック(大流行)が起こったといわれています。アメリカ、ブラジル、ロシア他格差が激しい国に顕著に表れたことを見てもよく分かりますね。

  世界中が大きなダメージを負っている状況ですが、ブラジルは特に大変です。ブラジル政府は外部に向けて失業率は約 14%と発表していますが、実質は 25~30%、公園はテントやブルーシートがいっぱいで、住居を失くした人たちの簡易宿泊所となり、夜どころか昼も危なくて歩けないのが現状です。平均寿命は日本が女性 87.45 歳、男性 81.41 歳、ブラジルでは女性 79.9 歳、男性 72.8 歳、ブラジルは日本と比較して平均 8 歳ほど寿命が短いので、70 歳を超えての死亡は寿命だと考える風土でもあり、亡くなってもみなさん「仕方ないよね」で済まされています。

  日本の人たちはブラジルを「移民大国」だと言いますが、それは 30~40 年前の話で、現在人口 2 億 1000万人に対し外国人は75万人ほどしかいません。公式な外国人比率は約0.3%、日本での比率と比較すると約 10 分の 1 です。日本の方がはるかに移民大国です。しかし、日本は「移民=住民」と扱わず、一時滞在者として低賃金の最下層労働者として働かせ、住民としては扱わないケースも多く、特に技能実習生は現在約 41 万人余り日本に滞在しており(法務省統計より、2020 年末現在)、 2017 年以降毎年 7,000 人以上が失踪しています(法務省より)。まるで 1908 年に第 1 回移民船「笠戸丸」に乗ってブラジルに渡った日本人が現地のコーヒー農園からの集団夜逃げをした話を思い起こさせます。

青き目の太郎を抱きて何故知らず
落とすなみだの地に沁みゆく
(千葉美夜)

  この句は、70年代の戦後移民一世の短歌で、日本人が日系人に、日系人がブラジル人になる移民 としての一歩を踏み出した短歌です。孫が可愛いのは当たり前ですが、日本が遠のいていく淋しさ、悲しさが伝わってきます。移民という民族的実験を 100 年前に経験した日本人、同じく 35 年前から来日し定住永住していくであろう日系ブラジル人、私たちは血より教育こそが日本人を日本人たらしめることを学びました。ブラジルではセントロ(街の中心)にヨーロッパの人々は教会を建設し、日本人は学校を建設、二世・三世は現地の有名大学に進学し、現地に適応し、ブラジルへの強い忠誠心を持ち、優秀なブラジル人になっていきました。本物の現地化には100年かかるといいます。以前、北海道旭川市を訪問し、商談後に立ち寄ったスナックでママさんが「私は曾おじいちゃんが広島出身だが、行ったこともない」と言われたことを思い出しました。江戸時代以前は「アイヌ」のみなさんしかいなかったので、屯田兵で行かれたのでしょう。おじいちゃんまでは顔が思い浮かび郷愁にかられますがそこまでで、ママさんも「私は旭川の人間だ」と言い切っておられました。日本で暮らすことを選択した外国人が日本人になるには(帰化などの手続きではなく)どうすれば良いのか、旅の途中で考えさせられました。

2021年3月30日(火)

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