人生を楽しむ境界が必要になるのでは?
このグラフは過去30年間の実質賃金指数の推移を示しています。バブル崩壊時、ITバブル崩壊後、そしてリーマンショック後と景気が陰り、需要が不足した時に賃金が下がっています。第2次安倍政権が推進した最低賃金の引き上げ(最低賃金を上げれば需要が増え、供給を上回るようになれば労働者不足となり、より賃金の押し上げ効果があるという考え)は空論で、利益の出ない需要は人件費だけがかさんで企業は赤字、倒産を避けるために雇用する労働者を削減、結果的に失業者は増加、そして賃金下落の方向に誘導されていくような流れに感じているのは私だけではないでしょう。
2020~2021年は新型コロナ禍で実質賃金はさらに下落、特にダメージが大きい業種は小売り、飲食、旅行業、食品加工業、二次・三次下請製造業、農林水産業の一部で、中小企業や自営業の占める割合が高い傾向にあります。ダメージが予想されるのは、社会的弱者と言われる厚生年金未加入の国民年金のみの方々、中高年非正規労働者、子育て世代のひとり親世帯、障害者を抱えた世帯等、老後の蓄えのない人たち、自助努力で老後を考えざるを得ない人たちで、5~10 年後は社会全体に大きなダメージが出現するものと思われます。
2020年10~12月期平均の非正規雇用者比率は37.4%(総務省統計局「労働力調査」)ですが、体感値では半数近くに感じられ、今後は年金受給額が月10万円以下の人たちが膨大な数にのぼると予想されますが、私たち介護事業者がその層に対応することは難しいのが現状です。
日本の異次元の高齢化は定年制にも大きな影響を与えています。国民的漫画の「サザエさん」のおじいちゃん、磯野波平さんは何歳位だと思いますか。私は現在 71 歳ですが、同じ位だと思ったらとんでもない。原作の長谷川町子さんによる設定では、なんと54歳なのです。その頃の定年は55歳で、波平さんは定年の1年前の年齢、おばあちゃんのフネさんは48歳、サザエさんは23歳で設定されています。私の生まれた1950年の平均寿命は男性 60 歳、女性 63 歳でしたから55歳定年は年金で7~8 年も支えれば十分、年金財政は潤沢で実にたくさんの年金施設を建設することが可能な時代でした。それが50年を経た2000年の平均寿命は男性77.7歳、女性84.6歳と著しく長生きするようになりました。内閣府は「高齢者」の定義を65歳から70歳に引き上げるよう提案していますが、高齢者の既得権は強く、投票行動も若い世代より積極的な世代でもあり、突き崩すことは難しそうです。私が35年前初渡伯した折、サンパウロ市のある銀行の支店長が当時44歳で、「私は来年定年で今から待ち遠しい」と話していたことを思い出します。その頃ブラジル国の平均寿命は 58 歳位で、年金受給開始が45歳、世代交代、新陳代謝のなんと早い国だとの印象でしたが、今考えてみると当然の流れだったのですね。 コロナ禍の2021年を経て外国人労働者受入れの新たな歴史が始まりましたが、先ほどの1950年と2000年の50年間の予想も出来ない変貌に見られるように20代の外国人が70代になり、私たちの税金で彼ら彼女らの老後を支える時代が来るのかもしれません。歴史は我々の想像を超える未知なる現象を引き起こしますが、それも含めて人生を楽しむ境界が必要なのでしょうね。
2021年4月30日(金)