アバンセライフサポート・会長のつぶやき

色即是空 空即是色

  

   高校生の頃、トルストイの『アンナ・カレーニナ』を読み、面倒臭い小説だなと思い途中で投げ出しましたが、60 歳を過ぎて再挑戦してみると、これが実に面白く味わい深い。年を経て経験が加味され、全く違った味わい方が出来るのですね。冒頭に有名な書き出しがあります。

   幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。

出典:トルストイ『アンナ・カレーニナ 上 改版』(岩波文庫、1989 年)

  幸福の定義は難しいですが、絶対値(自分が幸せだと思えば幸せ)と相対値(周囲と比較して幸せかどうか)があります。サンフランシスコ州立大学の調査では、住人同士が同じ位の収入環境の方が幸せ度が高く、近所同士の関係も良いとの結果が出ています。私の子どもの頃も貧しかったが、近所みんなが貧しかった。中学 3 年の夏休みに海産物卸へアルバイトに行き、1 か月を経て最後の日にしじみを一俵もらい、近所に配って回り、その日の夕刻時に私たちの住む長屋の多くでしじみ汁の匂いがしたことを思い出します。何かに属している、繋がっている、この同質感は連帯や幸せ感を生むのですね。
  北欧を中心としたヨーロッパ諸国は税率が高いことが有名ですが、不満を持つ人はほとんどいません。私はドイツに親戚がいて、ブラジル出張の折経由地なのでよく立ち寄りますが、ドイツでは原則学校や病院は無料、年金も有給休暇も整備されており、人生のどこかで起きるアクシデントに対応してくれ、必要以上の貯蓄にあくせくすることもありません。富は一定以上になると満足いく人生、幸せな人生の手助けにならないようで、金満資本主義下の日本では裕福な人と貧困層の格差が広がり、摂食障害、不正行為、盗み、傷害が増えているようです。
  心理学者マズローが提唱した「欲求5段階説」という理論があります。マズロー先生は、人の欲求は5段階あり、一つひとつの階段がある程度満たされないと次の段階へは行けないと言います。1番目は「生理的欲求」で、食欲、排泄欲、睡眠欲など生きていくために必要な基本的・本能的な欲求です。2番目は「安全欲求」で、身体の安全、健康、働くなど安心・安全な暮らしへの欲求です。3番目は「社会的欲求」で、家族、友人、地域、会社などから受け入れられたいという欲求です。北欧の高福祉国やドイツ、ベネルクス三国などは、この三つの欲求を社会が整備することにより、守られ感、安心な社会を創り出し、生活に必要とする以上のお金を稼いだ人たちには稼げなかった人の分の負担を求め、その負担は国民や国家の安心安全をもたらし、しいては自らの平安をもたらすとしています。よく考えてみると、これは仏教の教えですよ。人の欲望は尽きることがなく、一つの欲望が満たされるとまた別の欲望が湧いてくる。あれも欲しい、これも欲しいとさながら餓鬼道に落ちた亡者のように無限に苦しむことになります。日本国内の健康食品市場が 1.5兆円規模で、75歳以上の人たちが全医療費の半分以上を占め、65歳以上の人たちの資産が日本の個人資産合計の約 80%を占めている現状からも分かりますね。

  『般若心経』にはこんな言葉があります。

色即是空(しきそくぜくう) 空即是色(くそくぜしき)

出典:『般若心経』

  種をまき、木が成長し、枯れ、朽ちて肥料になる、この一連の流れを「生と死」として捉え、様々な変化を実態ではなく空だと考え、目の前の欲望に翻弄される愚かさを説いています。地球の歴史は46億年、地球に人類が生まれたのは500万年前、地球の歴史を1年に例えると、人間は大晦日12月31日の午後2時30分に生まれたばかり、その人間が我が物顔で傍若無人の限りを尽くしている現在、人としての在り方を見直すSDGs(持続可能な開発目標)は、仏教思想に通じるところがありますね。 。

2021年5月31日(月)

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