アバンセライフサポート・会長のつぶやき

待機期間を使って考える。

  11月5日ブラジルから帰国しましたが、翌日から19日まで14日間の待機があり、この原稿を書いているのは16日、あと3日でこの巣ごもり禁固刑から解放されるというところです。刑務所に入っている人も同じような気持ちなのでしょうが、指折り数えて一日千秋の思いでその日を待ち焦がれています。

 

  今回のブラジル出張は、コロナ禍以降のブラジル在住日系人の人材調達戦略や、ブラジルに唯一残る日系人向け邦字新聞社「ニッケイ新聞」の買収、コロニア・ピニャールにおける社会貢献事業他盛りだくさんな懸案があり、ブラジル滞在の2週間は瞬く間に過ぎ帰国、現在巣ごもりに服しております。
  今回の出張は2日間程別行動はありましたが、ほぼ2週間アウトソーシング社(OS)のM氏と弥次喜多道中、私どもの歴史、ビジネスモデルを一部始終見ていただきました。彼は年齢49歳、OSグループに入社6年で今期売上高5,000億円を見込む企業の常務執行役員、まさに絵に描いたような企業戦士、ビジネスマンです。その彼に、「私は本が好きで今回の出張も10冊余り持ってきたんだよね」と話し、特にキリスト教作家の三浦朱門さん、曽野綾子さんご夫妻、高橋たか子さん、大原富枝さん、椎名麟三さん、遠藤周作さんなどが好きだと言うと、彼は遠藤周作さんのガンジス河で死体を運ぶ小説を読んだというのです。私は驚きの余り声も出ませんでした。というのは、普通遠藤周作といえば『海と毒薬』、『王妃マリーアントワネット』、『スキャンダル』、『イエスの生涯』を挙げる人が多く、『深い河』を第一に挙げる人はほとんどいません。この作品は彼の遺作で、彼のキリスト教的宗教観が辿り着いたゴールともいうべき作品で、これが面白かったという人に私はあまり巡り合ったことがないのです。『深い河』の作中で「玉ねぎ」という言葉が頻繁に出てきます。誰もが何かを信仰している。それはキリスト教、またはヒンドゥー教、あるいはイスラム教かもしれない。チベット仏教徒はほぼ全てがヒマラヤに向かって祈ります。日本の神道は何が経典なのかと宮司さんに聞くと、古事記や古今和歌集だといい、あれは歴史書であって経典ではないよねと聞くと、八百万神で全て神、森羅万象に神が宿ると考える日本の神観念だといい、まさに遠藤周作さんのいう「玉ねぎ」の世界に入ります。ヒンドゥー教の母神、チャームンダーの像を見ても、腹部は飢えでへこみ、萎びた乳房に吸い付く赤ちゃん、足は「ハンセン氏病」でただれ、女神なのに実に苦しそうで、日本の仏教の観音様とは程遠い姿をしておられます。イエス・キリストも十字架を背負い、ゴルゴタの丘に向かって歩いたとされ、ソクラテスが公開裁判で死刑を宣告され、弟子が止めるのも聞かず毒を呷ったのも、我々「玉ねぎ」人類は不完全で、その不完全な人たちが考え判断し、それをソクラテスは異常だと知りながら甘んじて受け入れたというのです。アフガニスタンのタリバンは、もともとイスラム教神学校「マドラサ」で学んでいた敬虔な信仰心の厚い学生が中心になって結成したイスラム教原理主義で、十字軍勢力の排除から始まったのが「やめられない、とまらない」運動になり現在に至ったように、一神教は反対勢力を認めることはありません。神は一つしかないという考えなのですから。キリスト教も同じ一神教ですから、ブラジルでは街の真ん中に教会を建設、価値観や人生観を一本化して統治すると都合が良いので、イエス・キリストに全てを代弁させています。日本の八百万神はどんな形にも染まりやすい「なまくら型」ですが、私たちにとっては身の丈に合った非常に心地良い宗教です。私が洗礼を受けようと思っても今一歩踏み切れないのはそんなところにあります。ところで、ビジネスマンの権化のような OSのM氏はどのような思いで『深い河』を読んだのでしょうね。

   

2021年12月2日(木)

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