未来のグランドデザインを探す。
2022年4月15日、総務省は2021年10月1日時点の日本の総人口推計を発表しました。人口は前年比64万4,000人減の1億2,550 万24人となり、11年連続で減少、減少数は過去最大で、出生児数が死亡者数を下回る人口の「自然減」はさらに深刻で、15年連続で減少、昨年は過去最大の60万9,000 人となりました。すごいですね。鳥取県の人口約55万人、島根県は約67万人、高知県は約69万人、この規模の県の人口が毎年一つずつ消失していくのです。私が結婚した1970年代前半は、結婚件数100~120万組、昨年は51万組、欧州の主要国より婚外子が極端に少ない日本は、結婚件数がそのまま出生数の指標と考えられ、今年の出生数は驚くなかれ80万人割れが予想されます。毎年0.5%減っていくと、200年後は人口ゼロ、生き残った一人は日本全体が自分の国になりそうですね。これからの日本はどうなっていくのでしょうか。近未来の20年後は、人口規模でもGDPでもフィリピンやベトナムに並ばれ、追い越されるというのもまんざら嘘っぽい話ではなさそうです。人口減少が世界的に、しかも国毎に同じ比率で起これば良いのですが、そうは上手くいきません。日本や韓国は減少、アメリカやフランスは現状を維持しそうですね。私が長年携わってきた分野の外国人労働者ですが、移民の多くは経済格差と為替で動きます。合法的なルールがなければ、難民として移動します。今回のウクライナ難民を見ても同じで、世界では人口のおよそ3%、2億数千万人の人たちが難民状態にあると言われています。この 3 か月程で日本の円レートは10%以上下がりましたが、1ドル=150円になると国を跨いだ労働者の移動は一気に減少することでしょう。
先日、とある県から特別養護老人ホームを無償で譲渡したいとの話があり、二つ返事で承諾、訪問致しました。聞いてみると、典型的な過疎の村で、本体の社会福祉法人の町から人を送り込んで運営しているがそれも限界、お目にかかった理事長から「一日でも早く撤退したい」と叫びともつかない嘆きの声を聞きました。こんな田舎にも市場主義の人口アンバランスが押し寄せているのです。業者はクリア可能なおいしいものにしか手を出しません。若い人は不便なところに住みたくない。仕事がないではすまないがどうしようもない。しかし、お年寄りは残らざるを得ない。定年を過ぎて帰趨本能が働いたベビーブーマーも戻ってくる。結果的に田舎はお年寄りだらけ。つぶれる町はつぶれれば良いという考え。これを「自己破壊」というのでしょうね。
動物は自分の縄張りに侵入した相手を追い出しはしますが、必要以上に他の縄張りに入り相手を殺害、蹂躙したりはしません。人間が厄介なのは、自己破壊の本能というか能力を持っていることで、個人では自殺、手段では戦争へと、本当に人類全てを滅ぼすことも可能な能力を保有することとなった極めて危険な動物として地球上に存在しています。日本では、この個体は市場原理主義の中で長い時間をかけ、年功賃金制、終身雇用、メインバンク制、ピラミッド型下請制度という仕組みをつくり上げてきました。戦後の財閥解体、新円切替、農地解放という三大改革の中でもしぶとく生き残り、企業や行政コミュニティの他者を顧みない資本主義社会を選択した結果、自己破壊活動となっていったのでしょうね。仕組みをつくるのは優秀な人材で、学力に基づいた仕事の価値はどんどん上がり、「手仕事」「心のケアをする人たち」は能力主義社会制度を作成する彼らから見て低位の仕事に見え、価値が感じられないのでしょう。しかし、学校の試験に合格し、効率的な勉強をする能力を重用し過ぎた結果として、その他大勢と称する圧倒的多数の人たちが自分を落ちこぼれだと思い、現状が夢の持てない幸せの感じられない索漠とした社会と感じるようになりました。働く意義、幸せ感、自尊心、社会における有用感など基本的な生きがいやモチベーションが感じられない社会が楽しいわけがありません。福祉業界に生きる我々は、「働く」とは何か、「幸せ」とは何か、子どもたちにどんな人生観を持って育ってほしいのか、未来の支え合い社会のグランドデザインを探し求めていくことになりそうです。
2022年05月06日(金)